いびつな晩白柚
新年がスタートした喧噪も終わる1月末、田舎の母から蜜柑が送られてきた。
その中には、大きい晩白柚2個、小さいものも2個ある。
昨年の天候のせいで、良い晩白柚が手に入るか、母は心配していた。
私には、この晩白柚が良いのかどうかはわからない。
でも、今週の木曜日、これをお寿司屋さんに持って行く。
そして、喜んでいたよ、と母に告げるだろう。
昨年秋、これが最後かな、という決まり文句とともに、横浜に父と母がやってきた。
この4日間、観光は、父が望んだ最終日の東京タワーだけで、あとは、箱根も東京も用事のために行く。
心残りが無いように、身体の動くうちに。そんな用事だ。
食事も3泊目の晩御飯だと、そろそろゆっくり、自分たちのペースで食べたい頃だろう。
今日は朝から東京まで出て、夕方ホテルに着いたときは、さすがに疲れているようだった。
辛いことがあったことも、言葉や表情からなんとなくわかる。
今日は木曜。毎週木曜、ランチはお寿司屋さんの日。
もう何年も通っているので、私にとって2代目の大将は、よく私に話かけてくれる。
今回、父母が横浜に来た際は連れてきます、よろしくお願いします。
と伝えると、春に引退された先代の大将に出てきていただくよう手配してくれた。
疲れて外出を渋る父に、タクシーで行こう、帰りもタクシーでと、説得し、
予約の時間を1時間も早めて、お寿司屋さんに向かう。
4人でカウンターに座る。
先代の大将、おやっさんも久々の仕事でご機嫌に見える。
いつも、この店では妻が財布を握る。
元来ケチな私には、このお店の夕食は値段が気になって、とても楽しめない。
だから太っ腹な妻に任せる。
妻は食べたいだけ握ってもらい、私は美味しい日本酒だけを楽しむ。
日本酒はメニューに値段が書いてあり、安心できるから。
父も母も、すこしおやっさんとお店に遠慮気味に楽しんでいるように見えた。
終始。
口数も少なく。
おやっさんや、妻の話にうなづき、聞くばかりで。
そんな中、母がポツリと言った。
こんな店で、こんな風に食事したことは一度もなかった。ありがとうね。
田舎に帰った母は、晩白柚を御礼にお寿司屋さんに持って行ってくれと頼んだ。
翌週、ランチで大将が、おやっさんも喜んでました。と教えてくれた。
、、、
どんなに高価なものでも、
あなたにそのお金が払えるのなら、それは大したことではないだろう。
本当に深い、心が動くものは、人の心が通うところにある。
少しいびつで、でも大きくつやつやと立派な晩白柚を抱えて、
涙が止まらない。
おわり


